gameabout4-5_02

アーティスト:天城冴
作品名「造の王国 番外編 ニホンスゴイネ祭開催 アートの女王はこの私よ!

【解説】
数多ある日本の平行世界の一つニホン国のお話です。与党ジコウ党総裁であり世襲ボンボン三代目のアベノ総理がトップ、それを支える面々、頭髪のため健康茶に凝る陰険おじさんガース長官ほか、アベノ総理の応援団ネトキョクウ(日本でいうネトウヨのような人々)、元アベノ総理の後継候補ヨネダ・レイミ元ボーエイ大臣、勘違い妄想炎上議員ミズタ・ミャクミャクらが繰り広げるブラックコメディ。

(これより本編ですわ)


長すぎる残暑に、毎週のようにくる台風災害に見舞われたニホン国。が、一息つく間もなく新たな災厄の種がここ、与党ジコウ党会館の二つの部屋で芽吹きつつあった。

「きいい、あの女、ついに講演会までやるなんて!アベノ総理のお気に入りはこの私よ!」

と、いつもの桃色のお家ブランドのヒラヒラ服ぶりっ子ぶりはどこへやら、甲高い声を部屋中に響かせているのは、元ボーエイ大臣ヨネダ・レイミ。

 度重なる失言他、大臣に全くふさわしくない言動により更迭、ネット過激右翼のネトキョクウのアイドルやアベノ総理の影の後援会である“会議ニッポン”の姫の座も追われ、さらに原発推進電の大手力会社カンカンデンからの献金も発覚。アベノ総理の寵愛も薄れ、いよいよ不味い立場になったという自覚があるのか、イライラしているようだ。

「ヨネダ先生、そのう、少し落ち着かれては。怒りは美容に悪いですし」

ヨネダの剣幕に落ち着かせようと口を開く秘書アケミ。

「そ、そうね。でも最近議員になったイマ馬鹿とかミズタとかが、私を追い落とそうといろいろと画策しているのよ。あの女ども、初の女性総理候補の座は私なんですからね」

当の昔に候補から滑り落ちたんですけど、とは怖くて決して言えない秘書アケミ。物理的暴力こそないが、そのセリフを口にした途端、どういう恐怖の事態がまっているかは想像にあまりある。イラついたヨネダは発情期の雄ゾウに匹敵するほど危険なのだ。なんとか機嫌をなおしてもらおうと、仕入れたばかりの情報を口にする。

「その、いったん中止になって再開した例の芸術祭、“表現は不自由です…”展に対抗してザクライ氏らが“ニホンスゴイネ祭”を開催しているのですが、アベノ総理がそれに参加するとの裏情報がありまして。広告会社の便通の方が総理の像を造るアーティストを募集中だそうです。いかがでしょう、地元で埋もれているアーティストに声をかけられては」

「なんですって、アベノ総理肝いりのアート祭に参加ってこと。それはいいわ」

「では、早速アーティストを」

「いいえ、それよりもーっといい案があるわ!」

とホホホという笑い声をあげるヨネダ。

“なんだか、いやな予感がするわ、どうしよう、まずかったかも”

言わなきゃよかったと速攻で後悔する秘書アケミであった。

一方別の部屋。

「ふん、またツィートが嘘だなんて、何よ、私の言ったことが嘘だとでもいうの!」

事実誤認のフェイク、妄想垂れ流し、見境ない喧嘩腰のツィートに注意、非難、批判されっぱなしのミズタ・ミャクミャク議員。アベノ総理に抜擢され、張り切って行動するものの、生来の思い込みの激しすぎる性格が災いしたのか、発言するたびに大炎上。今日も批判と嘲笑の嵐のコメント欄を読みながら眉を吊り上げ、髪を振り乱している。

「ミズタ先生、落ち着かれてください。そのようなお顔、外部から撮影されでもしたら」

と、余計な一言をいってしまう秘書マユミ。

「なんですって、窓の外にドローンでも飛んでいるとでもいうの!」

「先生、このお部屋は歩道に面しておりまして、そのドローンでなくても良いカメラなら撮影可能かと」

「当選回数が少ないからって、こんな部屋。今の総理のお気に入りはこの私よ。落ちぶれたアイドルヨネダとさっさと部屋を変えてもらわないと、むろんガタヤマ議員よりもいい部屋を」

と、知られたら野党だけでなく与党ジコウ党の議員まで、怒り狂うことを平気で口にするミズタ。むろんヨネダ議員とガタヤマ議員の耳に入ったら、どのようなことが起こるか、考えただけで身震いする秘書マユミ。

「その、ミズタ先生。アベノ総理が、例の中止になって再開したアート祭に対抗してネトキョクウ、いえ有志開催の“ニホンスゴイネ祭”ですか、あれに参加されるかもしれないと。そのお手伝いをされるというのは、いかがでしょう」

なんとか気をそらそうと耳にした噂話を口にする秘書マユミ。

「そ、それいいわね。あのモモタンも金ぴかのアートみたいなのやったし。あんなのに負けてたまるもんですか。コピペ、歴史捏造作家に」

自らの歴史勘違い言動は棚に上げ、目下抗争中の作家モモタンをこきおろすミズタ。

「それは、それとしまして。どのようなお手伝いを」

「お手伝い、そんなものではダメよ。私こそ真ネトキョクウのクィーンであることを知らしめるために、究極のアートを提出するのよ、イラストレーターのハズミさんもいるし完璧よ!」

しまった、と思ったときにはもう遅い。口は災いの元、という諺を噛みしめる秘書マユミであった。

数日後。

久々にジコウ党総裁室を訪れたアベノ総理。

「ニホンスゴイネ祭に参加するなんて、今から楽しみだな。ああ、でもガース長官になんて言おうか」

右腕ともいえるガース長官に相談なしで、血税をネトキョクウ主催のヘイト祭りと批判されるイベントにつぎこもうとするアベノ総理。さすがのガース長官もいい顔はしないだろう。どう説明しようか迷っているところに

トントン

とノックの音がした。

「誰だろう、今一人だけど、どうしようか」

総理が椅子から立ち上がろうとした途端入ってきたのはヨネダ議員の秘書アケミ。

「あ、アベノ総理、し、失礼いたします。ヨネダ議員が、その、ニホンスゴイネ祭に参加されたいとのことで、これが、その作品で」

と、カートに押してきたのは、布を被った物体。

「へえ、ヨネダ君が、みてもいいかな」

「は、はい」

とためらいがちに布をとる秘書アケミ。

中から現れたのは黄金の、というか金箔をはった女性の全身像。

「すごいね、金色ですごくきれいだ。それによく似てるねえ」

金ぴかの像の顔はヨネダ議員にクリソツである。

「やはり我が国の技術はスゴイ。ニホンスゴイネ祭に参加する話をして、一週間もたたないうちに、こんな像を造れるなんて」

うっとりした表情で像を眺めるアベノ総理。

「は、はい、その」

「それにしても奇麗だねえ。金色で」

「あの、総理。色だけでなく他もご覧いただいて」

「うん、ああ、よくできてるよね。ヨネダ君に生き写し。人間そっくりのロボットつくる教授にでも頼んだの?これでいくらぐらい?」

「え、えーと、その」

口ごもる秘書アケミ。そこへ

トントン

またもノックの音がした。

「今日はお客が多いなあ」

とアベノ総理が言い終わるやいなや、入ってきたのはミズタ議員と秘書マユミ。

「あらヨネダ議員の秘書アケミさん、何しに総理の、いえ総裁のお部屋に?」

言葉は丁寧だが敵対心むき出しのミズタ議員。

「そのう、ニホンスゴイネ祭にヨネダ議員の作品を」

「あらヨネダさんも?私も作品をもってきたのよ」

と秘書マユミにもたせていた丸めた紙をひろげた。

「おお、すごいねー」

「イラストレーターのハズミさんと私の合作ですのよ、このポスター」

と、広げられポスターに描かれているのは天蓋付きのベッドに横たわり、腕を頭の後ろで交差させた女性のイラスト。心なしか、顔はミズタ議員の選挙用ポスターに瓜二つ。

「よくかけてるねえ。でも、これどこかで…」

ポスターをみて、不思議そうな顔をするアベノ総理。思わずミズタ議員に尋ねる秘書アケミ。

「あのう、ミズタ議員、こ、この構図はその」

「素晴らしいでしょ。私の欧州貴族のような上品さとともにセクシーさもそこはかとなく醸し出し。実はエロティックバージョンもあるんですのよ」

と含み笑いをするミズタ議員。

秘書アケミは小声で秘書マユミに話しかけた。

“マ、マユミさん、あの構図。あのスペインの有名絵画にそっくりなんですけど”

“そ、そうなんです。ハズミ先生もそれはご存じのはずなのに。なんであの方、有名な写真や絵画の構図を真似しちゃうんでしょう”

有名写真の構図を真似し、しかも元のモデルを傷つけるようなキャプションをつけたイラストを発表し、非難の嵐にあったというのに、まったく懲りていないハズミ氏、彼女に恥の精神はないようだ。

“やっぱり。じゃあ、まさかエロティックバージョンってヌード”

“そうなんです、それも展示されたらどうしましょう。ミズタ先生、一応お子さんもいる既婚者なのに”

やはり、オトモダチ、ハズミ氏同様ミズタ議員も恥の概念はどこかに置き忘れたようだ。既婚者であろうがなかろうが、男女関わらず、国会議員のヌードイラストはマズいでしょう、と思わず突っ込みたくなるが、秘書アケミはぐっとこらえる。

“なかなか斬新というか思い切ったことをなさるんですね。でも、うちの先生も”

“すごいですね、全身金箔の像なんて。お高いんでしょう。それにヨネダ先生そっくりで、さぞかし有名な彫刻家の作品…”

と秘書マユミがほめるのを盗聴器顔負けの地獄耳で聞きつけるミズタ議員。

「へえ、有名な作家さんねえ、一体どなたなのかしら。だいたい、金泊の像なんて成金趣味で下品じゃないの、ヨネダさんも趣味が悪いわねえ」

「あの、その」

ミズタ議員の丁寧ではあるが、批判めいた口調に口ごもる秘書アケミ。ミズタ議員は像に近づき

「よくできてるわねえ。でも、ここのスーツのとこ塗というか、少し剥げかけてるわよ」

と剥げかけた金箔をくっつけようとしたのか、いきなり手のひらで像の背中を押した。その途端

「何をするのよ!」

と、怒ったようなヨネダ議員の声。

「え、よ、ヨネダさん?ど、どこ?」

「ヨネダ君?」

「ヨネダ先生?ま、まさかアケミさん、この像」

「だから、絶対わかるからやめてくださいって言ったのに」

「何をいうのよ、アケミ!アベノ総理だってほめてくださってるわ。私、ヨネダこそが作品、アートなのよ」

彫像のフリをやめた金ぴかのヨネダ議員が拳を振り上げて抗議する。

「なによ、これ。自分に金箔を貼ったっていうの?何がアートよ」

と驚き呆れるミズタ議員。だが、金箔の彫像モドキになったヨネダ議員も負けてはいない。

「アンタだって有名絵画の構図を真似した、似非アートポスターじゃないの!恥を知りなさい、この無知」

「あんたこそ、自分の年齢と顔を考えなさいよ。“ニホンスゴイネ祭”参加中、そのままでいるつもりなんて、オバサンには無理よ。毎日、金箔を貼りなおして参加するつもりだったの?一体いくらかかると思ってるのよ。まさか歳費とか政党助成金から金箔の代金をだそうっていうんじゃないわよね!この恥知らずの税金泥棒!」

「なんですってえ」

と、剥げ落ちる金箔も構わず、ミズタ議員につかみかからんばかりのヨネダ議員。ミズタ議員は応戦体勢の構え、手にしたポスターを丸めて武器にしようとしている。

「センセーイ、やめてください」

アケミとマユミが同時に叫び、二人の間に押し入って、すんでのところで乱闘をとめた。

「なにするの!」

「止めるんじゃないわよ!」

と口々に叫ぶ二人のジコウ党女性議員。

「お二人とも、総理がみてらっしゃいます!」

ともみくちゃにされながら、二人の秘書はアベノ総理を指さす。

アベノ総理はポカンと口をあけたまま、二人、いや四人の様子を眺めていた。

「あ、あの、総理、この件はその辞退ということで」

と、ホホホと金色のまま作り笑いを浮かべ部屋をでるヨネダ議員とその後につく秘書アケミ。

「あら、ポスターが皺になってしまったわ。総理、作品の提出は改めまして」

と早く作り直さなきゃといいながらドアに向かうミズタ議員と秘書マユミ。

残されたアベノ総理は

「あの金色の像、よかったなあ。そうだ、僕の像をつくってもらうか。それも特別なのを」

とひとり呟いていた。




後書

まあ、こんな恥な人たちが議員であるはずがないと思いたいですね。

宣伝ですが、これと関連する話“捏造の王国 その27”を 小説家になろう サイトで発表する予定ですので、興味を持たれた方はそちらもお読みいただければ幸いです。