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参加者:綾小路麗夢
(過去にアダルトゲームなどのシナリオを執筆されていた方だそうです)


MeToo運動にBLM運動。世間では少数派の運動が大きなうねりをあげるが何故か日本のネット社会では否定的な声が多い。
社会運動に消極的なのか?いやそんな筈は無い。日本だって大きな社会運動を巻き起こした。忘れもしない11年前の9月18日である……。

そもそもアイドルマスターと言うゲームは異質だった。タッチパネルでアイドルをプロデュースするゲーム?ワンダーモモの「前科」があるだけにまたナムコはとち狂ったのかと誰もが思った。
しかしいざプレイしてみれば、(※PS2の時代なので今見たら稚拙な画像だが)画面の向こうに本物の女の子がいて、その子とメールでコミュニケーションがとれる、それは画期的な出来事だった。かくして次第にプレイヤーが集まり彼らはプロデューサーの意味の「P」と呼ばれるようになった(後にボーカロイドの作曲者がPと呼ばれるのはその名残である)。
中央のモニターに流れる音楽番組風のVTRに一体どんなPが関わっているのかと腕を組み、オーディションを勝ち抜けば歓喜し、敗れれば本気で悔しがった。無名だった今井麻美やたかはし智秋もこのゲームから飛躍して今や人気声優だ。あのペラペラのユーザーカードには、多くのPの汗と涙がしみ込んでいた。
「アイマスは俺達が作ったんだ!」
それが、当時のP達の認識だった。

忘れもしない、2010年の9月18日。
PSPでアイマスの新作が出る。まあそれは良い、しかし。
・Xbox版で追加された美希が敵に寝返る
・分割されるので765側が個々に別れる
・何故か男アイドル追加
と、これほどまでに「改悪」と言う言葉が似合う改変をされてしまった。
それはもうP達は怒った。どうしてくれるんだ、美樹はそんな尻軽女なのか、俺のユニット組めないぞ、誰に男アイドルの需要があるんだ!?と。
あの日、誰もがアイマスはオワコンになると思った。私もそうだ。中には「廃業」したPもいただろう。

この「炎上」にバンナムが自主的に気付いたのか、はたまたSCE(現・SIE)から改善を求められたのかは定かではないが後に発売された「2」においては再び全員がプロデュース出来る様になり、本来の姿に戻った。その後、このゲームを基にした無印アニメもヒットし、ひとまずアイマスは破滅への道を回避出来た。
無論、問題が無かった訳ではない。あの時やり場のない怒りの矛先を向けられたジュピターの中の人たちは気が気でなかったろう(キャリアもまだ浅かったし)。

現代人はこうした経緯を無視して
「キモヲタの理不尽なクレームにバンナムが屈した」
と解釈するのだろう。
冗談ではない、あの時どれだけのPが真剣に怒ったと思っているのか。クレームとは「屈するもの」でも「無視するもの」でもない、「真摯に受け止めるもの」である。あの時バンナムが聞く耳を持っていたのは、双方にとっても幸いだったのだろう。

オワコン化すると思われたアイマス、蓋を開けてみればオワコンどころか15年以上も続くコンテンツとなった。運営は野球チームを持つほどの利益を得た。あの中居正広やゆずをCMに起用するほどのタイトルになった。やり玉にあげられたジュピターの3人も今やSideMには無くてはならない存在になった。あの時のバンナムの姿勢を、今の日本の政治家がどれだけ持っているのか?
歴史とは常に、声をあげた者が変えるのである。